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JALパイロットに聞く「せかいの空事情」【前編】

#せかい部note 新企画!「せかいとつながる仕事」シリーズ✨
第二弾は、パイロット志望で飛行機オタクのレンと、空港が大好きなサワが、日本航空(JAL)パイロットの光井亞希さんと服部岳さんにお話を伺いました✈️

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ー本日は、よろしくお願いします。
まず初めに、普段、お二人がどんなお仕事をされているのか教えてください。

光井さん(以下、光):
はい。私は、日本航空が運航しているなかでは一番小さい飛行機である、ボーイング737の副操縦士として、国内と、台湾、韓国発着の旅客便の運航を担当しています。最近は、国内線が多いですね。勤務体系としては、月に10日休みがあり、それ以外は、737で毎日飛んでいます。1日平均して3-4本飛びますね。

服部さん(以下、服):
私は、ボーイング787の機長として、国内線の大阪便と福岡便の2本を除いて、ほぼ国際線の運航を担当しています。昨今は、コロナ禍の影響で、旅客便が大幅に減っていますが、貨物便を中心に、運航を担当しています。

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ーパイロットを志したきっかけは、何ですか? 

服:
私は、「スチュワーデス物語」というドラマを見て、航空会社という世界を知ったことをきっかけに、自分でいろいろ調べていたら、パイロットという仕事に惹かれていったんですね。 当時は、今のようにインターネットがなかったので、通信教育の進路相談でパイロットになるにはどうすればいいのか、などの質問をして、パイロットになる方法を調べていました。 

光:
私は、大学ではまったく違う勉強をしていました。当時は、工学部の建築学科で、設計士を目指していました。そして、いざ就活を始めるというタイミングで、知り合いのパイロットから、「自社養成(※)」の採用で、女性が入ったらしいよ、と聞いたのです。そこで、女性でもパイロットになれるんだ!、と知りました。
当時、就職氷河期だったこともあり、貴重な新卒の機会だったのですが、パイロットは、建築士以外で、やってみたいと思えた仕事でした。それが、日本航空を受けて、パイロットになったきっかけです。 

※ 自社養成:パイロットライセンスのない者を、パイロット候補者として採用する制度で、入社後に、パイロットになるための訓練を始める。

 サワ(以下、サ):
光井さんが入社された年は、女性パイロットは何人くらい、いらっしゃいましたか? 

光:
当時、年間40人弱の採用で、女性は私のみでした。 

レン(以下、レ):
現在は、どれくらい女性パイロットがいらっしゃるんですか? 

光:
今は以前に比べて増えていますね。現在訓練中の女性だけでも30人くらいいますよ!

 サ :
どんどん、増えていってるんですね...!! 知らなかった! 

光:
はい。女性パイロット、増えています!! 

服:
私が、JALを受けたのは、だいぶ前ですが、そのときも、自社養成の受験者の中に、女性はいました。最後の方の面接まで、残っている方もいましたよ。
まだまだ女性パイロットの人数は少ないですが、性別関係なく採用されるようになってきたのではないか、という感覚があります。 女性がより活躍するようになった理由の一つは、操縦自体が昔より体力勝負ではなくなってきたことも大きいと思います。
例えば、昔は、車もハンドルが重かったんですよね。今は、パワーステアリングが当たり前になっていて、大きな力がなくても、運転が可能になっています。バスの運転手など、車のプロドライバーで女性が増えてきているのも、同じ理由ですね。
昔は、航空大学校の募集要項にも、握力の基準項目がありましたし、パイロットになると、航空身体検査証明というライセンスのために、毎年、握力を測られていました。でも、今は握力の計測はありません。
光井さんは、測ったことありますか?

 光:
いや、私は測ったことないですね。 

服:
ですよね。今は、そういった握力測定が法的にも必要なくなるくらい、体力的な部分で、だいぶ緩和されていて、それが女性パイロットの増加の背景となっているのだと思います。
さらに言えば、視力に関しても、昔は、基準が厳しかったですが、その基準だと条件を満たす人が限られすぎてしまうので、視力の制限も緩和されましたね。 
採用情報に関しては、詳しくは、Webサイトで確認してください! 

レ:
自分がパイロットを目指す上で、視力に少し不安があったので、今の話を聞いて、ほっとしました!

サ:
身体条件というと、キャビンアテンダント(CA)さんは、アームリーチが必要というのを聞いたことがあるのですが、パイロットもそういった基準はありますか? 

服:
今は、パイロットの具体的な身長制限はなくなっています。客室乗務員もアームリーチの制限は緩和されていますよ。
先日、話題になっていたのですが、客室乗務員がスムーズに手荷物を収納できるように、JALでは、独自にメーカーさんと開発した「TanaOs(タナオス)」という名前の、”棚”を”押す”棒を作ったりしています。実際に、767では、その「TanaOs」を使っていますね。

タナオス


©Charlie FURUSHO

光:
他にも、もしかしたら昔からある物なのかもしれないですが、パイロットの座席も体格を選ばなくなっています
パイロットのシートは、車よりももっと自由に動かせることができるようになっていて、身長が低い人でも、すべてのスイッチに触れることができるようになっています。 逆に、体が大きい人でもフィットするようにもなっていて、シートの調整は柔軟に効きます。 

服:
昔は、握力や視力や身長など、いろいろな条件がありましたが、今は、飛行機を進化させたり、ツールを使ったりすることで、性別や身長にかかわらず、誰もが働きやすいようになっていますね。 


ー学生時代の体験で、今の職業・生活に影響していることはありますか? 

光:
私は、学生時代、ずっと書道をやっていたのですが、その教室で、先生が書いてくれた標語が貼ってあって、今でもモットーになっています。
「やり続けること。それが一番の才能だ」
訓練中、大変なことや辛いこともたくさんありましたが、丸々1日、お休みにする日がないように、何かをずっと続けるようにしていました。先生からもらった言葉を、「諦めなければ、たどり着けるよ」という意味に解釈しています。 

服:
私は実は、大学生の頃、某テーマパークで働いていました。そのときの経験で、対人コミュニケーション能力がつきましたね。
パイロットは、JALだと、2,000人以上いますし、787だけでも7-800人くらいいます。 そのなかで、約6割が機長、残りの4割が副操縦士ですが、かなりの頻度でフライトの度に、「初めまして」となります。初対面の人と、自己紹介した1.5時間後には、一緒に飛んでいます。
なかには、人見知りの人もいるので、客室乗務員も含めて、コミュニケーションを取りやすい雰囲気を出すことは、常に工夫していますね。 そういった点で、テーマパークでの経験はとても役立っています。 

光:
ちなみに、どのアトラクションで働いていたんですか?

服:
実は、今は機長ですが船長だったこともあるんです(笑)今でも、社内で、多くの人から、「船長」と呼ばれているんです。 

レ:
僕も、大学入ったらテーマパークでアルバイトをやりたいんです!! 

服:
私が知っているだけでも、JALのパイロットで、某テーマパーク出身者が、4-5人いますよ(笑)
パイロットになって始めの頃に、機長から、機内アナウンスを任されたことがあって、マイクを持った瞬間に、ついスイッチが入ってしまい、「ご搭乗の皆さま、こんにちはー!」と言ってしまい、機長に「アナウンスはもう少し落ち着いていてもいいんじゃない?」と突っ込まれたことがあります(笑)

レ:
そんな経験があったんですね!良い意味で、パイロットの印象が変わりました!


 ー初めてのフライトの思い出を教えてください。

 光:
当たり前かもしれないですが、「わあ、綺麗だな」と思いました(笑)
先日も、パイロット何人かで集まっているときに話していたんですが、「コックピットを客席にしたら何千万円もの価値があるんじゃないか」、というくらい、眺めがいいのです。
客席では気づかなかったですが、雷が雲のなかで光ると、雲全体が光って、とても綺麗だったり。セントエルモの火といって、窓に黄緑色の光が走ることがあって、避けなくてはいけない積乱雲のサインではあるものの、心のなかで感動することがあります。 

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セントエルモの火の写真。CNNサイトより引用

服:
帯電した機体の窓付近から放電するのが見えますが、すごく綺麗ですよね! 
私は、初めて実際の旅客機に乗って、実機訓練のためにエンジンをかけたときに、それまで訓練していたシミュレーターとは違う、大きなエンジンの振動が体に伝わってきて、「うわぁ!エンジンかかった!」と感動したのが、最初の記憶ですね。 

サ:
やっぱり、シミュレーターとは、全然違うんですか? 

服:
操縦操作は酷似していますが、臨場感は全然違います!
それまでは、訓練中は、プロペラ機でライセンスを取っているので、プロペラ機のエンジンの振動には慣れていました。でも、私が最初に乗ったのは、エアバスのA300-600という300人乗りくらいの旅客機だったのですが、エンジンのものすごい振動が伝わってきて。感動と同時に、改めて身の引き締まる思いで飛んだ思い出がありますね。 


ーずばり、パイロットの魅力とは何でしょうか? 

光:
いろいろありますが、まだ、副操縦士なので、成長し続けられる、というところです。いくつになっても、勉強して、成長に終わりのない仕事であるのが、パイロットの魅力だと思います。 

服:
毎日、反省と、次に向けての自己研鑽の繰り返しです。より良いところを目指していかないといけないので、光井さんが言うように、常に勉強だと思います。
それから、社内の仲間意識や、同期のつながりがとても強いことが、私はパイロットの魅力だと思いますね。皆で力をあわせて飛ばしている、という気持ちがあるんです。
一般的には、同期同士って、先に課長になるぞ〜!みたいな競争があって、「同期=ライバル」という考えがありますよね。でも、自社養成パイロットは一切ない!会社に採用された時点で、同期は競争相手じゃないんです。協力し合って全員で3本線をつけた副操縦士になり、一緒に4本線の機長を目指す。
操縦桿を握れば、安全運航を堅持しようという意識で協力するのは自社の中だけではありません。操縦していて、大きな揺れを感じたら、会社に関係なく、他の飛行機に必ず教えてあげるんです。
例えば、他社が近くを飛んでいたら、インターパイロットという、パイロット同士が使える周波数の無線で呼び出して、「今ここの高度で、すごく揺れてます、この高度に変えたら揺れはおさまりました、どうぞ気をつけて」のようなことを、教え合います。
他社の航空会社はライバルと思われていますが、空の仲間同士、情報交換をし合って、より良いフライトを、お互いにつくろうとしています。 外国人のパイロットとも、同様に上空で情報交換したり、空港ですれ違うときに、労い合ったり、コミュニケーションを取ったりしますね。 

光:
駐機場で、飛行機同士がすれ違ったり、使いたい駐機場が埋まっていて、他社の飛行機に移動してもらうときに、コックピットが向き合うときがあるので、お互いに、手を振り合ったりしますよ。

 サ:
お互いの動作って見えるんですか? 

服:
白い手袋をつけているので、見えますよ! 

サ:
そうなんですね! 常に成長し続け、「同期」や「JAL」という枠組みだけでなく、「パイロット」という職業全体で、仲間意識が強いのは、パイロットの大きな魅力だと、お二人の話を聞いて、私も感じました!


JALパイロットに聞く「せかいの空事情」【後編】に続く!


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