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JALパイロットに聞く「せかいの空事情」【後編】

せかいと繋がる仕事」インタビュー第二弾では、
パイロット志望で飛行機オタクのレンと、空港が大好きなサワが、
日本航空(JAL)パイロットの服部岳さんと光井亞希さんにお話を伺いました。
この記事は後編です。前編はこちらから


前編では、服部さんと光井さんにパイロットになるまでを中心にお話させていただきました。お二人からパイロットを志したきっかけやその魅力について聞き、すでに高揚していますが、後編もとても貴重なお話を山ほど聞くことができました!

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-フライトのある日はどういったスケジュールで動いていますか?

光井さん(以下、光):
私は国内線を飛ぶことが多いのですが、飛行機の定刻出発時間とは別に会社へのショウアップ(※)時間が決められています。私はまだ経験が浅いので、必要なものをプリントしたり、天気をみたりと、準備をするためにその決められたショウアップ時間の1時間前には会社につくようにしています。そこから逆算して、出社の1時間前に家を出て、そのさらに1時間前に起きています。 

※ショウアップ:集合場所に行くこと。この時間までに準備を済ませておく必要がある。

サワ(以下、サ):
一番早いときは何時頃起きますか?

光:
私が担当する便では、一番早いショウアップで朝4:55があるので1時台に起きます

サ:
早いですね(笑)

光:
ここから出社して、機長に挨拶をしてからお客さまの人数や天気を確認し、どこの高度を飛ぶか決めたり、今日はどのような客室乗務員と一緒に乗務するのかを確認したりします。そして打ち合わせが30分くらいかかります。その後、飛行機に行って出発準備に30分から40分くらいかかります。国内線ではフライト時間が最短35分から、長い路線ですと2時間半ほどのフライトもあります。行った先では最短35分で準備してまた次の便に乗ります。
お客さまが降機した後、客室乗務員が客室内の準備をして、またお客さまがご搭乗されます。その間コックピットでは出発の準備を進めています。
それが1日に3本から4本あります

サ:
お家に帰るのはいつもどれくらいになりますか?

光:
早いときにはお昼の12時くらいに終わって家に帰るときもありますし、遅いと午前0時を過ぎて家につくときもありますね。フライトスケジュール次第で変わります。

服部さん(以下、服):
私も基本的には一緒ですが、国際線は行き先によってショウアップの時間が違います。羽田空港か成田空港でも時間が違っており、忙しいときは便出発の1時間50分前で、例えば羽田からアメリカに飛ぶときはこの時間です。
その時間には、副操縦士と顔を合わせて打ち合わせを始めます。国内線より少し資料確認が多いですし、パスポートチェックなどの関係でお客さまのご搭乗も早くに始まるので早めに出社するようになっています。
その後の流れは光井さんとほぼ一緒です。
国内線と違うところは、乗務編成です。機長・副操縦士の2人きりのシングル編成と、機長2人と副操縦士1人のマルチ編成、機長と副操縦士それぞれ2人ずつのダブル編成と、3パターンがあり、アメリカやヨーロッパなどの長大路線は機長2人+副操縦士1人のマルチ編成で飛ぶことが多いです。この場合、上空で交代して休憩を取ります。だいたい離陸した2人が2時間程度飛んだあと、もうひとりの機長が副操縦士と交代します。そのあと副操縦士の休憩が終わったらもうひとりの機長が休んで、という飛び方をしています。

レン(以下、レ):
国際線も国内線も生活リズムが不規則になりますね。

服:
そうですね。でもサーカディアンリズムといいますが、体のリズムの方がその不規則に慣れてきて、不規則を不規則と思わなくなってきます(笑)。

サ:
ということは、時差ボケもあまりないですか?

服:
これは人によります。敢えて日本時間で生活して現地が昼間でも寝て休息をとる人もいますし、逆に現地の時間に合わせて夜まで起きる人もいますね。ジムで汗を流して体を疲れさせて寝る、なんて人もいます。それぞれ自分に合った工夫をしながら時差と闘っています


-フライト先に滞在するときはどのように過ごしていますか?

光:
初めて行く場所は楽しみにして家で下調べてしていきますが、滞在時間が短いことが多いので、少なくとも美味しいもの、名物を食べに行こうとしますね。何回も行くようになるとお気に入りのお店ができるので、そこに通いつめたりします。

服:
意外とそれって大事ですよ。フライト中に客室乗務員から「お客さまから美味しいお店を聞かれているのですがどこか知りませんか。」なんて聞かれることもあります。そこで、「この前ここに行って美味しかったですよ。」と教えることもあります。
行き先で勉学じゃないけど、実益をかねていろいろまわって観光するのも必要だと思います。長い路線では1~2泊はあるので、現地の電車に乗って観光することもありますね。

サ:
今、海外に行った際の外出は許されているのですか?

服:
良い質問ですね。コロナ禍の現在は基本的に許されていません。入国時に日本の検疫で書類を出す必要があって、「ホテルから出ましたか?」という質問があるのですが、外出してしまうと、お客さまと同様に帰国後14日間待機になります。
数日前にマニラに行ったときも、それを想定して日本から食物検疫上持ち込みが許されるインスタントのお茶漬けとレトルトご飯を持って行っていきました。でもレンジがなかったので、ご飯をお湯で戻してそれをお茶漬けにして食べました。滞在中の3食は、ずっとそれでした。(笑)
結構パイロットの生活って地味ですよ。

レ:
コロナウイルスが流行っていないときは乗務員みんなでご飯を食べに行ったりしますか?

光:
行きますよ。グルメな人が多くて、各地にみんなお気に入りがあるので、「今日はあそこ予約しますよ〜!」と、みんなで食べにいくこともありますね。

サ:
仲が良いのですね。

服:
それぞれの機種の乗員部でグルメ情報を集める人がいて、787には「まいう〜体験隊」というメンバーが作ってくれる情報集があります(笑)
情報誌をつくれそうなレベルですが、難点は海外なので、実際に行ったらもう閉まっていたり、別の店になっていたり、なんてこともあります。

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光:
最近はサウナも流行っています。会社に運航乗務員のサウナ部があります。737のメーリングリストに「近くにこんなサウナありましたよ」なんて流れてきたりしますね。

サ:
それぞれにそんなグループがあるなんて面白いです!


-今まで訪れた空港で「好きだな」という空港はありますか?


服:
それぞれの国に素晴らしさがありますが、私はヘルシンキの空港が結構好きです。田舎の空港なのですが、森のなかから、わっと突然空港が現れるような印象があります。自然豊かですし、降りると旅客ターミナルビルも自然と調和してつくられています。壁なども木でできていて、木の香りがするような空港です。何気なく置いてある椅子やテーブルも素敵で、この国の人は自然と一緒に暮らしているのだな、と伝わってきます

光:
私は仕事から外れますが、訓練に入る前に遊びに行ったケニアのマサイマラーというサファリがある国立公園の空港です。ナイロビ空港から飛行機で行くのですが、どこに降りるのだろうと思っていたら草地に降りました。(笑)看板に「エアポート」と書いてあるだけの場所でしたね。

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サ:
コンクリートの舗装がなかったんですか!?

光:
何もなかったです。草地の横に車がお出迎えしてくれて、そのまま乗り換えてサファリツアーに行きました。「よくこんなところに降りるな〜!」という場所でした。

レ:
もちろん誘導装置もないですよね?

光:
何もないです。何個か同様の空港があって、空港間を5分程度で移動するという不思議な体験をしました。

レ:
いろんな空港のかたちがあるんですね!ちなみに私はイリノイ州に留学して何度かシカゴの空港を使いましたが、行けば行くほど羽田空港が好きだなって感じました。(笑)



-パイロットしか知らない飛行機の豆知識を教えていただきたいです。


服:
なんですかね。なにかありますか?

光:
私が乗務する737の機材では、客室乗務員は客室内にて空調の温度設定ができず、コックピット内でしか温度の調節ができません。それも非常に難しくて、目標とする温度に対して、空調システムは逆の温度を作ります。冬の寒い日だと例えば60度の熱い空気を出して、コックピット内にあるつまみで微妙な調整をします。夏であれば、地上だとエンジンの空気が入らないためエアコンの効きが悪く、温度を低めに設定します。しかし、離陸してエンジンの出力が上がると急に冷房が効いてきます。離陸してそのままだと機内で15度程の冷たい空気がでるので、忙しいときにはノールックでつまみを回したりします。
なので、夏、737に乗って寒いなと感じたときは私たちのせいです(笑)

サ:
#せかい部の子から「飛行機に乗ったときに霧がかかった」という話を聞いたことがあったのですが、今この話を聞いて初めて納得しました!

服:
これは737のシステムが悪いということではなくて、もともと飛行機は上空のエアコンをメインに想定しているので、地上でのエアコンはおまけみたいなものなのです。飛行機のエアコンの仕組みは、一般的には上空ではマイナス40−50度程度の外気を取り入れて、それをエンジンの熱い空気と(787は電動コンプレッサーで加圧することによって昇温させた空気と)混ぜて温めた空気を機内に入れるようになっています。だから地上で微調節ができないのはある程度仕方がないですね。飛行機の空調のメインコントロールはコックピットにあります。中・大型機は客室で微調整ができますが、737にはたまたまその微調整機能が客室にないのです。

外気を導入してエンジン出力に関わるところで温めるので、客室で勝手に大きく調整するとエンジン性能にも影響が出る可能性があるので、客室で調整できる機種でも、微調整機能だけに制限されています!

サ:
エアコンがこんなに奥深いものだとは思ってなかったです。

レ:
機内が寒いなって感じるときにも、実はいろいろな意味があるのですね。

服:
実はお客さまから機内が「寒い!なぜこんなにエコの時代に」と言われることもあるのですが、本当は上空では寒い方がエコです。外の空気をそのまま入れるだけですからね。逆転の発想のエアコンです。
これは「パイロットしか知らない飛行機の豆知識」になったでしょうか?(笑)

サ:
この豆知識はみんなに知ってもらいたいです!

服:
あとは、右側の翼の端っこには緑、左には赤のライトがついています。これは実は信号になっています!「進路権」というのがあり、進路が交差するかまたは接近する場合、他の航空機を右側に見る航空機が進路を譲らなければならないと航空法で決まっています。赤いライトが見えた方が避けるというルールです。

A350 HND駐機(night)

さらに詳しくは調べてみてください(笑)

サ:
空の上で競り合いになったりするのですね。

服:
管制官が規定の間隔をとっているからそこまで接近することはありません。実際にそのライトで相手飛行機との進路権を考えることはまずないですが、世界的なルールで決められています。


-パイロットを目指す中高生にアドバイスをお願いします。

光:
私はひょんなきっかけから縁があってパイロットになりましたが、周りを見ていても、学生時代に何かに一生懸命打ち込んでいた人が多いです。訓練では、一生懸命取り組んだ経験がプラスになります。やり遂げた事のある自信が、万が一のトラブル時に自分でなんとかできるという強みになります。今、目の前にあることを一生懸命やってほしいです!

服:
光井さん100点!(笑)まさにその通りだと思います。いろいろな経験をすることが一番ですね。
残念ながらこれまで一般的に私たちパイロットは専門教育ばかり受けているので世間知らずと思われることが少なくなかったようです。この道を志すと一人前になるまでは訓練が忙しく、飛行機のことばかりになってしまいます。
現在は入社後もいろいろ経験できる体系になっています。実際に私も1年半羽田空港でカウンター業務を経験しました。訓練に入る前に地上での勤務も経験します

光:
私は訓練前に空港カウンターでの業務やディスパッチャー(運航管理)を3年ずつ経験しました。

服:
パイロットは飛行機を飛ばせればいいのだ!という職ではないです。いろいろな経験をして視野を広げてほしいです。私のテーマパークなどでの経験は仕事で役に立っているだけでなく、今でもそのときの仲間と仲良くしています。高校時代の同級生もお坊さんや寿司職人、警察官、消防士など、さまざまな職業の人がいて、その友人との会話からも視野が広がっていますから、そのように視野を広げてほしいです。いろいろなことを見ていると、興味が変わることもあるかもしれません。私は大学生でアナウンサーを目指したり、司法試験合格を目指したり、国家公務員試験を受けようとしたこともありましたが、まわりまわってパイロットに戻ってきました。最終的にどうなるかはわからないですが、さまざまなことを見ておくのは良いことだと思います。

レ:
私はパイロットを目指したいと思っていますが、文系の大学に行くつもりです。お話を聞いて、いろいろ経験した結果、パイロットに戻って来られるのもいいなと思いました

服:
自社養成は概ね6割は文系ですよ!

光:
うちの同期は9人中7人が文系です!

服:
同期には航空力学を大学で専攻していて、入社後の航空力学のテストで一緒に赤点をとった人もいましたよ(笑)
理系文系関係なく、マネジメントやコミュニケーションの文系的スキルも合わせて必要な職業です。


-最後にJALのパイロットとして読者にメッセージをお願いします。


光:
私も海外旅行が大好きで学生の頃からたくさん旅をしてきました。旅行に行けなくて寂しく思っている人も多いと思いますが、必ずまた飛行機に乗って海外に行ける日が来るはずです。だからそれまで雑誌などいろいろ見て頭のなかで想像して、コロナが落ち着いたらまたぜひJALに乗って実物を見に行っていただけたらと思います!

服:
光井さん100点(笑)それが言いたかった。
世界に目を向けている皆さんは、世界を知る良さはもう知っていると思います。コロナ禍が落ち着いたら、ぜひまだ見たことのない世界をさらに見てほしいです。私もまだ行ったことのない国に行ってみたいと思っています。またそうやって旅立てる日が来ると信じています。ペストだってあんなに大流行したけれどもノーマスク、ノー手袋の時代がやってきました。また前の生活が戻ってきたらどんどん世界に羽ばたいてほしいと思います。

レ:
個人的に聞きたい質問はまだたくさんありますが、今回のインタビューはこれで終了です。貴重なお話をありがとうございました。

サ:
ありがとうございました。

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これでJALパイロットに聞く「せかいの空事情」全編終了です。
楽しんでいただけたでしょうか。私はインタビューが数分で終わったと感じるほど有意義なお話を聞くことができたと感じています。

次回はJAL ニューヨーク支店で勤務している方にインタビューをさせていただきます。
お楽しみに‼

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